浜岡原子力発電所運転終了・廃止等請求訴訟弁護団より ~ご挨拶~

私たちは中部電力を被告とする浜岡原発の運転終了・原子炉の廃止等を求める裁判の弁護団です。静岡県弁護士会に所属する弁護士有志119名、愛知県弁護士会に所属する弁護士有志126名、他の弁護士会に所属する弁護士32名の合計277名(2012年12月11日現在)で構成されています。
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静岡県知事に避難計画に関する申し入れを行いました。

2015 年 12 月 22 日 火曜日 投稿者:浜岡原発運転終了・廃止等請求訴訟弁護団

2015年12月21日,県知事に対し,避難計画に関する申し入れを行いました。申入書の全文は次のとおりです。

申入書

静岡県知事
川 勝 平 太 殿

2015年(平成27年)12月21日
浜岡原発運転終了・廃止等請求訴訟弁護団
代表  弁護士 鈴 木 敏 弘

第1 申入れの趣旨
静岡県は,地域防災計画に基づき,浜岡原子力発電所(以下,「浜岡原発」という。)における原子力災害を想定した広域避難計画(以下,「避難計画」という。)の策定に取り組んでいる。この避難計画作成につき,次の通り申し入れる。
1 南海トラフ巨大地震検討会の被害想定を踏まえ,予想されうる最悪の想定に即した避難計画を策定されたい。
2 原子炉圧力容器の損壊による核燃料の大気中への大量放出を想定した避難計画を策定されたい。
3 1,2によれば,実効性ある避難計画策定が不可能である場合には,その旨を率直に県民に明らかにされたい。

第2 申入れの理由
1 避難計画の位置づけ
原子力災害対策としての地域防災計画の策定は自治体の責務とされている。自治体は,シミュレーションを参考に避難計画を策定することとされており,その避難計画が災害発生時に地元住民の避難行動基準として機能する。避難計画策定前に公表されたシミュレーションの結果は,避難計画策定前の時点では,地元住民の避難行動の基準にされる。従って,過小な想定や前提を誤ったシミュレーションは,住民の避難行動を誤らせ,多くの県民の生命身体を害する危険を孕む。

2 静岡県が平成26年4月23日に公表したシミュレーションの結果は欠陥だらけである~静岡県第4次地震被害想定さえも踏まえていない~
静岡県は,三菱重工業株式会社に委託して避難シミュレーションを実施し,「浜岡原子力発電所の原子力災害に係る避難時間推計業務」の報告書を提出させている。
東京電力福島第一原子力発電所事故から明らかな通り,原子力災害は,大地震等と同時に発生する可能性が高いことを前提とし,これに備えなければならない。
ところが, 上記シミュレーションは,地震と原子力災害の同時発生を前提とするといいながら,「内陸部の被害」については「家屋倒壊などによる道路閉塞」「都市火災などの発生による通行不能」「道路損傷(路肩被害,斜面崩壊,局所的な陥没,橋脚の落橋など」が考えられるとしつつも,「A)被害発生箇所の推定が困難であり,これを取り扱うことは避難時間推計の不確定性を増加させ,本来の避難安全上の問題の検討が困難になるB)自然災害が起因事象となり原子力災害が発生する場合は,自然災害の発生から原子力災害の発生までに一定の時間猶予があるものと考えられ,その間に最低限の補修作業を行うことで,通行可能とすることも可能である」との理由でもって,沿岸部の津波被害を限定的に考慮するにとどめている。
すなわち,上記シミュレーションは,原発に被害をもたらすような大地震との同時発生を念頭に置いたかに見せながら,当然,考慮するべき地震その他の影響による道路損傷や家屋倒壊などによる道路閉塞や火災などによる通行不能等を前提としていないのである。この点で,根本的な欠陥があると言わざるを得ない。
静岡県が平成25年11月に発表した第4次地震被害想定は,内閣府が設置した南海トラフ巨大地震検討会の想定する地震の規模を下回るものであるが,この第4次地震被害想定でさえも,「道路施設(緊急輸送路)は,橋梁の落橋や富士地区,中部(沿岸部)地区で大きな地盤変位に伴う被害などが発生した場合には、緊急輸送が可能になるまで発災から1週間以上を要する可能性がある。」とされ,一般車両については1か月以上主要道路が復旧しないことが想定されている。実際,東日本大震災においても,多くの主要道路を緊急車両以外の車輌(一般車両)が通行可能となったのは,震災1カ月程度後のことであった。
特に,静岡県の地形は南が海,北が山間部であるため,県内中部地方の住民は事実上東西方向に避難することしかできない。しかし,東方向に位置する由比付近の道路は脆弱で,巨大地震が発生した場合,通行に障害が生ずる可能性が極めて高い。西方向についても,国道1号線や東名高速道路等の主要道路は島田から掛川付近で山間部を多く通過していることから,崩落の危険性があり,交通が寸断されることが予想される。
また,中部地方の東西には川幅の広い河川が存在することから,河川にかかる橋が崩落し道路が寸断された場合,陸路での避難は不可能である。富士川付近に位置する富士川河口断層帯では,地震が起きた場合には7~10メートル程度の地盤の変異が予想されており,実際にこのような地盤の変異が生ずれば,落橋を含めた大きな被害が想定される。
繰り返すが,原発に被害をもたらすような大地震による被害を想定しないのでは,現実的な避難計画とはならない。
静岡県は,上記シミュレーションの前提が不適切であることを認め,現実に即した避難シミュレーションを再度実施し,避難計画を策定すべきである。新たなシミュレーションの結果がでて,それによれば実効性のある避難計画の策定が不可能であるとの結論になったとしても,そのシミュレーション結果を広く県民に知らせることこそが,真に実効性のある避難行動を各人がとることに結びつくものである。

3 想定する原子力災害の規模が過小であること
東京電力福島第一原子力発電所事故において圧力容器が爆発しなかったのは僥倖であった。現場を直接検証できないため,いかなる幸運が作用したか特定されていないが,同事故当時の近藤駿介原子力委員長は,福島第一原発の原子炉自体が爆発することを現実のシナリオとして想定していた。
溶融した燃料が圧力容器を貫通し,格納容器を破壊し,圧力抑制室内の水等と触れた場合,水蒸気爆発が発生し,この水蒸気爆発に伴い,核燃料自体が大気中に大量に放出され,圧力容器,格納容器,建屋が壊滅的損傷をうける。この場合,放出される放射性物質の量は福島第一原発事故の比ではない。
静岡県は,避難計画を策定する際には,最悪の事態を想定し,圧力容器,格納容器,建屋の壊滅的損傷により,核燃料自体が大気中に大量に放出する事態をも想定するべきである。住民が,このような核燃料の直接的な飛散があった場合にどう避難行動をとるべきかの指針はない。仮に検討結果が実効性ある避難計画策定は不可能との結論であったとしても,これをあらかじめ公開することは,被害最小化のために必要なことである。

4 避難計画策定が不可能である場合の公開
東京電力福島第一原発事故により,原発で過酷事故が生じうることが実証された。住民の生命身体に直接的な責任を持つ自治体は,起こり得る最悪の事態を想定し,各場合に住民の安全を確保し得る避難計画を策定するべく慎重に検討しなければならない。そして,真摯な検討の結果が,原発で過酷事故が発生した場合に周辺住民が生命身体に対する重大な危険を回避し得る手段がないというものであったとしても,そのことは被害予想として公開されなければならない。実効性のある避難計画の策定の可否は,住民が自分たちの地域に原発を許容できるか否かを判断する貴重な判断材料である。
自治体が過小な想定に基づき避難計画を策定すれば,住民の避難行動を誤らせ,より多くの県民の生命身体を害する危険すらあるのである。

 5 結論
よって,当弁護団は,静岡県に対し,冒頭の「申入れの趣旨」のとおり申し入れる。

以上